二人きりの勉強会 (第3話) 放課後の図書館。 「はないーっ、ココ!」 「おお、場所とりあんがと!」 「おーっす!」 「おおっ!」 1組も3組も早くに終わったのか、すでに勉強を始めていた。 みんながこれくらいマジメだったらな・・・苦労ねえんだけどな。 「あれ?今日、阿部と三橋は?」 栄口が集まったメンバーを見てそう切り出したのを発端に、次々と阿部と三橋がいないことへの論議がなされた。 「今日は三橋のカテキョーだってさ。」 「三橋、すげえうれしそうだったぞ!」 「阿部も、なんだか浮かれていたよねー。」 「花井、なんで阿部は三橋専属なの?」 沖の素朴な質問に、同じく意味がわからないといった風をしたのが西広、巣山、固まったのは花井、水谷、栄口、泉。 「えー、あいつら、付き・・」 「ばっ・・・お、おまっ!」 「場所考えろ!!」 田島の大声に泉と水谷が慌ててフォローする。 「え?なに?」 「つき・・・?」 沖と西広、巣山の追及に花井はますます青ざめた。 「や・・・それは、あとで、な。ここじゃ、なんだから。ほれ、教科分けるぞ!」 うー・・・・ついに、みんなに説明するときが来たか。 そんな花井に、更に追い討ちをかける出来事が。 「・・・・で、数学、誰がやんの?」 「西広は?」 「オレ、物理と化学やんないとダメみたい。」 西広の周りには沖と巣山が申し訳ないといった顔で陣取っていた。 「じゃあ、泉は?」 「いいけど・・・・誰教えんの?」 「はーい!!オレ、数学全くわかんねー。」 元気欲手を挙げた田島に、そんなことで威張るなよ、と内心ツッこむ。 「田島とあとは水谷だっけか?」 「2人もムリだ。田島は頼む。」 「ええー?オレかよ!?」 「いっそのこと、田島専属カテキョーになっちまえよ。英語は巣山でもOKだろ?」 「おお。4番が試合に出れねえと、困るからな。」 ニヤリと笑った泉。そしてその意見に賛同するほかのメンバー。 ・・・・コイツの面倒、全てって・・・。 オレが今度赤点とっちまうぜっ。 すでに胃が痛くなりつつある花井の肩を思いっきり叩き 「先生、ヨロシク!あ、オレたちも、家でやる?そのほうが集中できっかも!」 ニカッと笑いながらそうあっけらかんと話す4番バッター。 「ばっ・・・家は行かねえぞ!」 「あー、わかったから。田島、あっちで先にやってろ。」 田島を向かいの席に座らせ、花井もカバンを置く。 はあ・・・・なんだって、オレが。 そもそも、だ。 阿部の様子がなんか、ヘンだ、と気づいたのが、6月の梅雨のころだった。 三橋が投げすぎんじゃねえか心配だから家まで送る、とか 食いすぎで腹こわして夏大出られなくなったらシャレになんねーから、一緒にメシ食う、とか。 投手に対してはずいぶんと過保護なんだなーと思った。 だって、他のことには一切興味示そうとしねえからさ、正直、阿部がここまで執着するのってすげえって思った。 三橋のほうもそれを嫌がっている様子もなく、いやむしろ、ちょっとはにかんだりして嬉しがっているような風だったからさ ああ、いろいろとあったけど、うちのこれでバッテリーも安泰だなって思ってたんだ。 しかし、夏が終わってまもなく。 二人の間には、なんともいえぬ雰囲気が漂い始めた。 阿部が三橋の帰りを待つのは今までと変わらないが、三橋が着替え終わってんのに二人とも帰ろうとしねえんだ。 うっかり部室で3人になったりすると、すげえいたたまれない気持ちになって。 一人残っているオレがすげえ「ジャマしてる?」みたいな雰囲気が漂ってて。 慌てて「んじゃ、お先!鍵よろしくなっ!」なんて、まだシャツのボタンが途中でも荷物ひっつかんで部室を出るようになった。 ・・・・なんなんだ、アレ? 誰にも相談できずひっそりと悩んでいたが、その疑問はわりとすぐに解決した。 見てしまったんだ。 二人が、手をつないで帰っているところを。 あー、そういうこと、か。 驚きはなかった。あ、すんなり受け入れている自分には驚いたけどな。 でも、これはオレの胸のうちに秘めておく、そう心に誓った。 「阿部・・・・あれで隠しているつもりなのかね?」 「だよな。」 隣に座った泉が小声で話しかけてくる。 そう、オレが必死に隠そうとしてんのに、アイツらときたら・・・・、や、隠しているつもりなんだろうけど態度に出すぎなんだよっ。 阿部は、三橋が体育のとき、グラウンドで転んだだけで「オイッ!」とか平気で叫ぶし。 三橋だって、廊下を通るたびに阿部のほうをチラッと見て、目が合ったら小さく手を振ったりしているし。 そんな三橋に阿部は顔を真っ赤にしたり。 バッテリーだけの話し合いがあるとか言って二人だけで部室に残ったりさ。 二人で廊下でナイショ話とかしている姿は、ありゃ、どーみても恋人同士の睦言にしか見えねえっつーの!! 「バレバレなんだよねー。」 「お、栄口もそう思う?」 栄口も顔を寄せてヒソヒソ話に加わった。 「あんな阿部は見たことないね。」 「だよなー。」 「え?なになに?」 「オマエはこれ解いておけっ。」 「ちぇっ。」 再び3人で頭を寄せて話し出す。 「今日もさ、三橋と目があったら、すげえキモイ笑顔してたぞ。」 「ああ、オレも見たことある。あとさ、三橋が女子に、いや、男でもか、話しかけられたらさ、すんげえソイツのこと睨んでんだよね。」 「そうそう。睨まれたヤツわけわかんねえって顔してたぞ。」 「あれで隠しているつもりなんだろうけど・・・。」 「あっちがそうだから、こっちもさ、気づかないフリしてんだけどな。」 「「「すんげえ、疲れる」」」 はあああー・・・と盛大にため息をつく。 「三橋はどんな感じなんだよ?」 クラスが同じの泉に話をふると 「何かにつけて『阿部君がね』ってな、ちょっと頬赤らめて話してるぜ。そりゃもう幸せそうに」 と、困った顔をして答えた。 「ふうん・・・じゃ、相思相愛なんだ。」 「そ、バッテリー円満でいいんじゃねえの。」 「そうだけど・・・・。」 それでいいのかよ、本当に!! 男同士だぞ。 「阿部、いつ手出すと思う?」 「手って・・・・」 泉、カワイイ顔でさらっとすげえこと言いやがる。 「オマエ、気になんねえの?阿部のヤツさ、三橋の着替えとか見ないようにしてんじゃん。あれ、見たらマズイってことだろ?」 「そうそう。そして田島なんかがベタベタ触るとさ、『触るな!』とかわけわかんねえこと言ってやがるんだぜ。ああいうの・・・・」 「「「独占欲のかたまり。」」」 また、盛大なため息。 「三橋、相当苦労すんぞ。」 「んー、でも、三橋はそれを苦労とか思わなそうなんだよなあ」 「花井、お待たせっ」 見ると、田島がすっかりと帰り支度を整えていた。 「お待たせ、じゃねえよ。オマエ、さっきの問題どーした?」 「ああ?オレんちでやるんだろ?先生!」 「は?先生って・・・」 「え?カテキョーやってくれんだろっ?」 「お、花井先生、頑張ってください!」 「田島、みっちり教えてもらえよー!」 「おうっ。ホレ、花井行くぞ!」 「えっ・・・ちょ、ちょっと!」 なんでオレが・・・っ。 とりあえず、明日は「三橋専属カテキョー」、なんとか阻止せねば。 田島に引きずられながらそう心に誓った花井であった。 ←BACK |