このテキストはF.S.Sという漫画を元にしたダブルパロテキストです。
基の漫画をご存知無い方には大変不親切なテキストになっておりますのでご注意下さい。
以上の点を踏まえた上で御覧になられる方は、一切のクレームも受付いたしませんので、ご了承下さいませ。


















心地良い夜だった。
たまたま街で耳にしたニュースを思い出し、穏やかな夜風に髪を弄られながら、自分のパートナーとなったファティマ、レンと共にMHドーリーのテラスに出ているのだが、目的の物はまだ見えず、阿部は段々苛々と始めていた。

「マス、ター?」
「あー……もうちょっと待ってろ」

ドーリーから窺うようにこちらの顔を覗かせ、ついと歩み寄ったレンのふわふわとした髪を乱暴に撫でながら、阿部は照れくささからかすかに首筋を染めた。
傍らに立つパートナーはS型ファティマの為、短いズボンから覗いた足が、いくら星団法に定められたストッキングを履いていても寒そうでならない。というか、見ているこちらの目に悪い。
そんな嗜好は無かったはずなのにと思いながらも、阿部は用意していた大きめのブランケットを手に取り、レンの体も一緒に包み込むようにして体に巻きつけた。

「レン。今標準時間で何分だ?」
「午前1時、32、分です。マス、ター」
すっぽりと腕の中に収まったレンは阿部の問い掛けに、彼の顔を見つめたまますらすらと答えた。
それが過ちではない事を知っている阿部は、鼻を鳴らし、レンの頭の上に顎を乗せた。
レン達人工生命体であるファティマは、頭部に装着したヘッドクリスタルの中に超高性能な時計が内蔵されている為、これくらいの質問に答えるのに何の問題も無い。

人の手によって作り出された彼等ファティマは、今、阿部達がいる乗り物(といっても格納している物が巨大な為、下手な金持ちの屋敷よりも大きい)に搭載している、星団最強の武器を効率よく操縦する為の兵器だ。
彼等はその為に生み出され、生き、そして死ぬ。
阿部も、幾つかの戦場跡で騎士やファティマの亡骸を見た。
その多くが寄り添い合っている事を昔は理解できなかったが、自分がファティマを、レンをパートナーとして得てその理由が分かった気がした。

「マスター?」
黙り込んだ自分に、再びレンが掛けてくれた声に我に返った阿部は、どこか遠くへ行っていた意識を引き戻し、小さく詫びた。
その時だった。
視界の端に何かが走ったように思って顔を上げた阿部は、漸く待っていた物が現れた事に顔をほころばせた。
「おい、レン。上見てみろ」

じっと、小動物のようなひたむきさでこちらを見つめていたレンを促すと、その小さな口から感嘆の声が上がった。
「き、れい、です!」
「だろ?」
少し気温が落ち込んできたのか、頬に触れる風を冷たく思いながらも、阿部は大きな目をきらきらと輝かせ、星が無数に煌く夜空を切り裂くように流れる刹那を見つめた。
「今日が一番の当たりの日らしくてさ、お前に見せてやろうかと思って」

この星の周囲を飛び交う隕石が、贈り物として落としていくその身の欠片は今日、見渡す限りの天蓋の中で次々と燃え尽きていく。
「本当の流星群だ。滅多に見られねぇぞ」
腕の中、背中を預けるように体を捻ったレンは、うっとりとした表情で小さく頷いた。
「初め、て、見ました……」
「俺も、天然物は初めてだ」
柔らかく、短い髪が跳ねる後頭部に、阿部は唇を落とした。

宇宙から直接地上に降り立つMHが作り出す、人工的な流星に似た光線ではない美しい光に、二人は頭を傾けた。
もうすぐ実戦が控えている。
この少年の姿をしているファティマがとても優秀だという事は分かっているのだが、それでも、時々彼が覗かせる無垢な心を守ってやりたいと思う。
MHを、騎士を倒した返り血は、自分だけが浴びれば良い。
そして、レンにはできるだけ綺麗なものを見せてやりたい。
流星群の星の流れは途切れる事無く続き、阿部とレンはそれをお互い口を噤んだまま見つめ続けた。

阿部は腕の中の細い体を抱きしめる腕にそっと力を込めた。
例え戦う為に生み出された命でも、命は命だ。
レンは自らはあまり口にしないが、阿部の前のマスターには酷い扱いを受けていたらしい。
それにそのマスターが死に、ブーメランファティマとなって阿部と出会うまでの放浪時代にも、決して人間に、騎士に逆らえないファティマであるレンは、つらい経験を重ねている。

「マスター?」
知らぬ間に腕の力が強くなりすぎていたらしく、レンが少し不安げな声を上げた。
「っと、わりぃ。痛かったか?」
騎士である阿部の力は、人間よりもはるかに強い。
その気になれば、片手で人を殺す事ができるほどだ。
そんな力を込めてしまったかと尋ねると、レンは頭を横に振った。
「だいじょぶ、です。痛く、無く、て……嬉しい、です」
腕の中で体を翻し、自分と向き合ったレンは、そう言ってふわりと微笑んだ。

「マスターと会った、日に、綺麗なものを見られて、凄く嬉しい、です」
「おっ……!」
途切れがちに紡がれた言葉に、阿部は首筋から後頭部にかけて、一気に熱がましたのを感じた。
彼等ファティマにしてみれば、それくらいの事を覚えているのは当たり前なのかも知れない。
けれど、自分もそれを覚えていたは良いが、MHのオーバーホールが重なってしまって、何か記念になるような物を、と考えていたプランが崩れ去ってしまったが為に、苦肉の策を弄した事まで見透かされたような気がして、阿部はレンから目を逸らせた。

「MHのオーバーホールが重ならなきゃ、もっと良い物やれたんだろうけど……形に残る物やれなくてごめんな、レン」
その言葉に、レンは先ほど以上に強く大きく首を横に振った。
「形、には残らなくても、ここには残り、ます」
言いながら、自分の胸に手を当てたレンは目を伏せ、頭を阿部の肩に預けた。
「俺、凄く幸せ、です。マスターに出会え、て、生まれて、来て……生きて、いて、良かった、です」
訥々と紡がれる言葉に聞き入りながらも、阿部は茹でたように赤くなっているレンの耳に、視線が釘付けになった。

「なぁ、レン」
穏やかな呼びかけの声に、レンは伏せていた顔を上げた。
「俺さ、欲しい物あるんだけど」

その言葉にはっとなったレンは、傍目にも判る程の動揺を見せた。
きっと自分は用意していなかった事に思い至って、色々と頭の中で慌てているのだろうが、阿部は小さく笑うとくるくると視線を泳がせるレンの両頬に手を添えて、自分の方を向くように固定した。
「ま、ます、たー、ごめ、ごめん、なさ…ごめんなさ、い……」
ぼろぼろと大粒の涙を零し始めたレンの瞼に、阿部はそっと唇を寄せた。
反射的に目を閉じたレンは、触れてきた温かな感触に小刻みに震わせていた体を硬直させた。
「泣かなくていーよ」
レンをここまで人の言葉に怯えるファティマにした前のマスター連中を恨みながら、阿部は出来るだけ優しい声で囁きかけた。
そして涙を湛えた大きな瞳をみつめると、自分の目を閉じて、レンの薄い唇に口付けた。

抱き寄せた細い体が、硬直したまま動かなくなるのではと思うほど強張ったのを感じて唇を離すと、大きな目を更に大きく瞠ったレンが、じっとこちらを見つめていた。
「マスター?」
「俺にいつか、レンをくれないか?」
見つめてくる視線を真正面から受け止めながら、阿部は噛み砕くように囁いた。
「う、えぇ?」
阿部が何を言いたいのか分かったらしいが、本当にそういう意味で言われたのかどうか分からず、レンが頬を染めて慌てる様を見て、阿部は首を伸ばしてレンの耳に口付けた。

まるで小型犬の吼え声のような声を上げ、肩を震わせたレンに、阿部はもう一度耳元でそのまま囁きかける。
「今はキスだけで良いから、さ」
耳に言葉と共に吹きかけられた息にか、その声の甘さにか、レンは先程よりも大きく体をびくびくと震わせた。

こんなに可愛くて健気な者を相手にして、情を傾けない者も少ないだろう。
どこぞの大国のように、ただの消耗品として扱え、などというのは阿部には無理だった。
「目、閉じろよ?」
そう言い置いて再び顔を寄せると、レンは恥らうように唇を震わせた後、ゆっくりと目を閉じた。
触れるだけのキスから徐々に深いものに変えて堪能した後、くたりとこちらに体を預けてきたレンを抱きとめると、まだ星の降り続く空を見上げた。
声には出さず、白い軌跡を描くそれらに願いを込める。

これから先、お互いの天寿をまっとうするまで離れる事の無いよう、掴んだこの手を離さずにいられるようにと──





タジハナサイトマスターであられる大猫さんに送り付けてしまったアベミハパロです。KYです。だって大猫さんのタジハナパロが格好良いから、私のタジハナなんて……!と思ってしまいまして……いつか必ずリベンジいたします!申し訳ありませんでした大猫さん!(土下座)