風呂上りの僕ら。



風呂はゆっくりとくつろぐ場所だと思う。
筋肉を解したり、癒したり。
リラックスって奴。
そりゃ日本には温泉、って文化もあって。
必ずしも一人で入るもんじゃねーけど。
だけど一般的に、ふつーは自宅の風呂って一人で入るもんじゃねーのか?
「……あと5分で出るっつたのに、何で入ってくんだよ」
俺は自分の体をごしごしと洗いながら問答無用で「俺も!一緒にはいる!」と入り込んできた奴をジロリと睨む。
「んーいいじゃん。エコエコ」
風呂の浴槽のヘリに腕を置いてその上に顎を乗せて俺を見上げながら、ニヒヒっと田島が笑う。
──普段は電気つけっぱなしでも気にしねーくせに。なにがエコだ。
「まあ、もう出るからいーけど」
俺はふうっとため息をついてシャワーヘッドに手を伸ばした。
田島はやたらと俺と一緒にお風呂に入りたがる。
そして入ってる間中、何が楽しいんだか俺の体をじーッと見詰めてくるんだ。高校のときから見飽きるほど見てるくせに。
まあみるだけなら、まだいい。
んでも、大抵は何か仕掛けてくる。その、いわゆる、そーいうこと、を。
だから、こーいうときは、さっさと出るに限る。
そうしねーと、ナニされっかわかんねえ。

俺は洗いあがった体の泡を落としてしまおうと、コックを捻る。
熱いお湯の雨が降り注ぎ、一瞬で浴場は湯気で煙った。
お湯が柔らかく肌に落ちる感触が心地よい。
ほうっと俺は気持ちよさに息をついた。
ざっと落とした白い泡がお湯に溶け、すうっと浴槽の床に流れていって。
「……ね、花井」
「うぉあっ!?」
ざざっと湯を波打たせて立ち上がった田島が俺の首に突然そっと触れた。
「な、なんだよ!?」
「……ここ、泡落ちてない」
「いっ!?」
田島は、すっとオレの襟足の辺りに指先でなぞる。
ほら、と見せる指は、かすかにボディーソープの泡が付いていた。
「え、あ……、ありがと、な」

顔が自分でも赤くなっていくのがわかる。

意識しまくってんの俺のほうじゃねーかっ。田島は、別に何の意図もなかったのに。
「…………」
田島はそんな俺をちらりとみてくすっと楽しげに笑い、そして俺の手からシャワーヘッドをとった。
「田島?」
なんだろうと思って顔を上げると、にっこりと微笑む田島。
「後ろの泡、落としてあげる」
「……へ?」
「ね、ほら後ろ向いて」
くるっと肩を押されて後ろを向かされた。
……って、あれ? え?
「い、いい!! 自分でやっから!」
俺があわてているのも気にせず、田島はシャワーで撫でるように丁寧に泡を落としていく。それは一見、ただの親切とも見えるが。
んでも。
「遠慮しねーでいいって。泡残ったらあとでべとついて気持ちワリーじゃん」
って言いながらなんで後ろから抱きつくんだ、お前!
田島の腕の中から這い出そうとしても、プロ野球選手の腕でがっちりとホールドされたら、簡単にはいかない。
「洗いあがりの花井って、いーニオイ」
だぁああっ、ヒトの首筋舐めんなあ!
「ちょっ……っ、止め」
「んー……どーして?」
「どーしてって、そりゃ、ここ、風呂場だろ!」
「じゃあ出たら……いい?」
「出たらって……やる気まんまんのくせに……っ」
「うん、だってキレイなんだもん。梓」
俺、したくなっちゃった。いーにおいだし。
そういって、腰を俺に摺り寄せられる。
背中に感じる熱い肌よりも、硬く、ひときわ熱い箇所を。

お前……もう臨戦態勢かよ、それ……。

「──このままここでされるのと、ベッドどっちがいい?」
梓が選んで、とかいいながら、「止める」っていう選択肢がないのはどーいうことだよ。
俺が心の中で悪態をついている間にも、後ろから抱きかかえたまま田島の手はゆっくりと俺の太腿の辺りを撫で始める。
「う、あっちょっ……!やめ……悠、ここ……あっ!」
「早く答えねーと……このまましちゃう、けど?」
首筋に落とされる唇。
みなくても痕が残ってるとわかるくらい強く吸い上げられ、太腿を撫でる手が腰の辺りを回り始める。
タイムリミットは迫ってた。
「んなっ……ここ、じゃ……ベッド、……!触んな……っ!悠!」
その答えに満足したのか、田島が指きりの代わりに唇にチュッとキスをしてくる。
「んんーじゃあ、上がったらな? 約束!」
田島は嬉しそうな顔で、してやったりとにっこりと笑った。

う……っ。
俺は今日はそんなつもりじゃなかったんだぞ!
ビール飲んで、ナイターでも見ながら、ゆっくり、まったりと小さな幸せを楽しむつもりだったんだぞ。
んでも今の自分の体は、田島の体温に触れて、すでにその気になってしまって。
田島を突き放せなかったのも、たしかで。
そりゃ、もともと田島としたくないつーわけじゃねえけど。

けど、全部田島の思い通りかよ。くっそ。


「ん……?どうしたあず──いってっ!なにすんだよ!」
「うっせぇ!」
むかついた俺は、せめてもの意趣返しに、田島の脇腹をぎゅっと抓ってやった。




END



(2008.6.28)

「きらきら」のカイさん主催絵チャにて私が悪ノリした花井の科白をカイさんが超素敵なSSにして下さいました!
元は他の絵師の方々が書かれた風呂上りの大人タジハナのイラストを元に、文字のみでの参加の方々と妄想を膨らませ、カイさんが田島を、私が花井の科白を色々と打ち込んで出来上がったログです(笑)
その際の素敵絵はカイさんのサイトでUPされています。カイさんのサイトはこちらです。皆様必見!