pink sugar bonbon candy

−Side Mihasi−

阿部君の誕生日から、俺達はお付き合いをする事になった。

夏からずっと、ずっっと好きだった阿部君に好きだと言って貰えて、おまけにキスまでして貰えて、俺は嬉しくて涙が止まらなかった。
そしたら、阿部君の目にも、薄く涙の膜が出来てて、告白した後の練習では、二人共さんざんな調子で、監督に頭を握られた。

練習が終わって、帰る時間になった時は、途中まで皆と一緒に帰って、いつもなら俺の家の近くまで一緒に来てくれる田島君も、その日は早くに分かれて、阿部君と俺は、二人だけで、長い間自転車を押しながら歩いた。

嬉しさで一杯になって、何を話して良いか分からなくて、ふわふわぐるぐるしている間に、俺の家の近くまで来てしまって、俺は何も話さずにここまで来ていた事に気付いて、近所の小さな公園に阿部君を案内すると、自転車を停めて、謝ろうとして顔を上げた。
すると、一緒に自転車を停めた阿部君に先に謝られた。
何の事か分からなくて、もしかして、俺の事をつまんなくてウザいと思ったのかなとか、さっきの告白は嘘だ、とか、やっぱり付き合うのをやめようとか言われるのかと思って、涙が目に溜まってくるのに任せていると、阿部君は急に笑い出して、俺の頭を弄くった。

「まぁた色々ぐるぐるしてただろ、三橋」
優しい声に、手袋を嵌めた手で目をこすると、阿部君は俺の耳元に顔を寄せて、低い声で囁いた。
「ごめん。お前と二人でいられるのがすっげぇ嬉しくて、何喋って良いかわかんなくなっちまった」
言ってすぐに顔を離して、また「ごめん」と言った阿部君の耳は真っ赤になっていて、俺は涙が引っ込むのと一緒に、また嬉しい気持ちが溢れてきた。
「お、れも……一緒にいられ、て、嬉しい……考えてる事も、一緒で……」

喋るのは苦手だけど、でも、一生懸命喋ると、阿部君は顔も赤くしてそっぽを向いてしまった。
お、俺、何か変な事言ったのかな?!
「おっ前、それ反則だ」
うぁ!俺、やっぱり変な事言っちゃったんだ!
そう思った瞬間。
「んな可愛い事言われたら、襲いたくなんだろが。自重してんだから、煽らねぇでくれよな」

襲っ!?自重して、煽るって……?うえぇ!

練習の時や、普段見かける阿部君とは、全然違う様子や、今まで聞いた事の無い言葉に、俺はまた顔が熱くてたまらなくなった。
阿部君の方こそ反則だ。
俺だって、阿部君の事が大好きだから、触れたいし、触れてもらいたい。

俺は阿部君の目の前に立つと、今日のどたばたで、まだちゃんと言えなかった事を言おうと、ちょっと深呼吸した。
「阿部君、誕生、日、おめでと。同い年、だね」
言った瞬間、ちょっと安心して閉じていた目を開けて息を吐くと、真っ白い呼気が広がった。
本当は、ちゃんと目を見て言いたかったんだけど、そうするとうまく喋れないと思ったから、三星との練習試合の時みたいに、目を瞑ってしまった。
うう、もっと、ちゃんと言いたかった。

言って暫くしても、阿部君が何も言ってくれない事に気付いて、俺は恐る恐る、阿部君の顔を見上げた。
その瞬間、阿部君は何も言わずに、思いっきりぎゅっとしてくれた。
でも、あんまりにも急で、吃驚した俺は、「うひゃ!」って変な声出しちゃった。

冬の夜の公園、その周りに植えられている木の陰、街灯の光の届かない暗い場所に居るとはいえ、急に抱きしめられて、俺はちょっと慌てて周りを見渡して、他の人影が無いか確かめた。
「ゴメン、三橋」
俺の肩に顔を埋めたまま、また阿部君が小さく謝って、俺は阿部君の顔を覗き込もうとした。
そうしたら、阿部君の顔が急に迫ってきて、俺の唇は、また阿部君のそれに塞がれた。

時々息をする為に吐息を吐くと、白い息が途切れがちに舞い上がって、きらきらと星の輝く夜空に昇る。
だけどそんな事にも気付く余裕なんか無いみたいに、阿部君は俺を弄んで、告白した時よりも濃厚なそれを繰り返した。

頭が痺れて、足から力が抜けかけた時、阿部君は唇を離して、じっと俺の目を見つめた。

「お前ん家の近所だっていうのは分かってっけど、我慢できなかった。悪ぃ。でも、お前も同罪だからな?」
阿部君の幸せそうな顔に、俺は何も言えずに見惚れた。
格好良いなぁ……
「俺を嬉しがらせて死なす気か?頼むから、ちょっとセーブしてくれよな」

俺が見惚れている事に気付いた阿部君は、また目に涙の膜を作って、俺の鼻を抓むと、そう言って笑った。
俺は凄く幸せで、「ウヒ」と声を出して笑った。

「無理、だよ、阿部君。俺だって、阿部君に触れて貰って、凄く、嬉しいから、我慢なんて、でき、無いよ」

阿部君の黒い目を見ながら、ちょっと鼻声でそう言った瞬間、阿部君は目を瞠った。そして、俺の肩に顔を伏せると、阿部君の体から力が抜けて、だらりと俺にのしかかった。
「うおぁ、あ、あぁ、阿部、君?」
急に様子のおかしくなった阿部君に慌てて、裏返った声で叫びかけると、阿部君の手袋を嵌めた手が、優しく俺の口を塞いだ。

「も、駄目。死んだ」
手で塞がれた下で、声にならない叫び声を上げそうになると、阿部君は肩を震わせて笑い始めた。
「最っ高の誕生日プレゼントだ。これはクリスマスも期待して良いって事か?ってか、期待しちまうぞ?三橋」
顔を上げた阿部君は、俺の口を塞いでいた手をどけると、今度は触れるだけのキスをくれた。

「好きだ、三橋……ありがとう」

囁くような言葉が耳元に降ってきて、それと同時に、俺は阿部君の柔らかな抱擁の虜になっていた。
それは、こちらこそ、だ。

阿部君、生まれてきてくれてありがとう。
俺と出会ってくれてありがとう。
俺の球を捕ってくれて、俺を受け入れてくれてありがとう。
そして、こんな俺を……

「好きって、言ってくれて、ありがとう」

阿部君の背中に腕を回して、抱きつきながら言った瞬間、今度は本気で体重を掛けてきた阿部君に、俺は潰されちゃいそうになった。






たまには良いかな、と。
こんな事を考えつけた自分にびっくりデス。タイトルは名香○子さんの漫画、レディギ○ヴィアより。一番好きなキャラが「これを知っている男となら結婚しても良いわ」という科白が印象に残っています。
というか、we wishでそういえば、誰にも「おめでとう」を言わせて無い!と気付いた事で生まれました。迂闊!