かわるものと、かわらないもの




      第1話 



正門から入ると、桜並木が続いている。

今年は例年よりも開花が早く、すでに満開になっていた。

昨日は春の嵐だった。

美しく咲き誇っていたであろう桜も風雨にさらされて、正門から校舎へと続く道は、一面ピンクの絨毯になっている。

春休みの学校に用事のある人は少ないようで、まだそれは踏み荒らされてない。

なんとなく踏むのが申し訳ない気持ちになる。

今日はすっきりと晴れわたり、青空が広がっている。

一雨ごとに春が近づくと言われているが、空気が、また少し温かいものに入れ変わった気がする。


春休み中の学校は、人気がなく閑散としている。
高校時代も、部活でほぼ毎日学校に来ていたが、たまに校舎に立ち寄ると、普段の喧騒が嘘のようで、静まり返った校舎は別の場所に感じられた。


あれから、10年。


今日は、タイムカプセルを掘り起こす日。

当時の生徒会が『10年後の、3月の最後の日曜日にみんなで集まって、掘り起こそう』と決めたイベント。

果たしてどれだけの人が覚えているだろうか?




「ねえ、阿部君。」

久しぶりに校舎を見て、懐かしくなったんだろう。

三橋もずっと黙っていたが、オレに話しかけ始めた。

「なに?」

「学校で、一番思い出深い場所は、どこ?」

「んー。そうだよな。やっぱ第二グラウンドか?あそこに行かない日はほとんどなかったからなー。三橋は?」

「私はね、ここ だよ。」

たどりついたのは、中庭。ここは・・・

「二人でキャッチボール、したとこ・・・だな。」

「そう。」

ちょっと恥ずかしいのか、三橋の頬に赤みがさす。


あのときから、この場所から、オレたちは始まった。

キャッチボールして、三橋の笑顔に惚れて。

「あとね、もうひとつあるんだよ。ここは・・・1年のとき、阿部君が、『オレの彼女だ!』って、叫んだところだよっ。」

・・・・・・思い出した。

「私ね、すっごく恥ずかしくて、逃げ出しちゃったけど・・・・やっぱり、うれしかったの。

 あれから、阿部君、女の子から告白されなくなったでしょ?女の子に呼び出されるたびに・・・不安、だったから。

 阿部君のことを信じてないわけじゃなかったけど・・・」

「んなの、オレだって同じだよっ。結婚・・・・しているわけじゃねーからな。

 三橋が他の男を好きになるんじゃないかって、不安は、ずっとあった。

 だからな、告白されているのを見たら・・・つい、叫んじまったんだ。」

人の心は、鎖ではつなぎとめられない。

『好き』なんて気持ちは、ガラス細工のように繊細で、壊れやすくて。

ちょっとしたボタンのかけ違いで、あっという間に崩れ去っていく。

そうやって別れていった人たちを、数多く、目の当たりにしてきた。

オレたちにも・・・いろんなこと、あった。

就職して、遠く離れてしまって、関係が揺らいだこともあったが・・・

それを二人で乗り越えて、今日、ここに至る。

三橋と一緒にいなかったら・・・オレ、今日のことなんてすっかり忘れていて、きっとここにいなかっただろう。







NEXT→