シャンソン 2 

『苦痛とは何だ』

もう聞き飽きた問い掛けを耳元で囁かれた気がして、浜田は気分を害しながら目を開けた。
窓際に置いてあるベッドの心地よい布団の温もりの中、頭だけ窓の方に向けると、眠っている間に降り出したらしい、テレビの砂嵐の音に似た雨音が、アンティークなデザインの窓から届いてくる。
このビルの持ち主だった人物の趣味で、外見はボロを装って作られているが、中は趣味の良いアンティーク調に整えつつ、随所に最新装備が施され、外の雨の冷たさを伝えてはこなかった。
地下三階、地上七階建てのこのビルの五階に寝起きする浜田は、ベッドの上に上半身を起こすと、窓に掛かるベージュの遮光カーテンを開け、まだ少し不快感の拭えない目を外の景色に向けた。

雨音は高校最後の晩冬を境に、神経を逆撫でする音になった。
自分の気分を入れ替える為、わざと大きな欠伸をしながらベッドを抜け出すと、自分の体の動作確認をするかのように、ベッドサイドでストレッチを兼ねて軽く体を動かした。
「嫌な事、思い出しちまったなぁ……」
「あ、起きてたのか?」
「どぁっ!」

誰も入らないはずの自分の部屋の中で突然声を掛けられ、思い切りびくついて振り返ると、寝室の扉の向こう側で、ずぶ濡れの男が一人立っていた。
「い、泉?!」
「おう。悪い。勝手に上がらせて貰ったぜ」
水も滴る良い男を地で行くような濡れ具合に、浜田は慌ててバスタオルを取りに走った。

エアコンの電源を入れ、部屋を少しばかり暖めるように設定すると、浜田は泉が滴らせた水滴の始末に、モップを片手に部屋の中を走り回った。
特に理由を聞かず、晩春と初夏の狭間の早朝、冷たい雨の中を走って来たらしい彼を、とりあえずバスルームに放り込み、熱いシャワーを浴びさせている。
湯船に浸かっているのか物音一つしないが、浜田は床掃除を終えコーヒーの準備を整えると、脱衣所のドアを開け、ユニットバスのすり硝子の扉の前に立った。
「いーずみー。コーヒー淹れるから、そろそろ出て来いよー」

扉に肩を預け、温かそうなオレンジ色の光と湯気の気配に満たされた浴室には目を向けずに言うが、中からは何の返事も無かった。
「泉?」
もしかして聞こえなかったかと思い、少し声を張って問い掛けてみるが、またしても返事は無かった。
数瞬躊躇った後、何かあったのかも知れないと思い、引き戸式の扉を開けた。
すると、浴槽に浸かったまま淵に頭を預け、寝入ってしまっている泉の姿が正面に見えて、浜田は深々と溜息を吐いた。
「ったくもーこんなトコで寝るなよー……」

開きっぱなしになっていたカランを閉め、流れ出し続けていた湯を止めると、浜田は泉の剥き出しの肩に手をかけた。
「ほら、お……」
起きろと言葉を続けようとしたが、それは派手な水音を立てて飛び出してきた泉の手に阻まれた。
泉の手は、浜田が伸ばしていた手を掴むと捻りあげようと動き、浜田は思わずそれをかわす為の動作を取ろうとしてしまい、慌ててその衝動を押さえ込んだ。

「イテーーーーーっ!!」
「え……って、何してんだ?浜田」
悲鳴を上げる浜田に向かって、泉は寝惚けたような声を上げた。
「どうもこうも無いぜー?あんまり出て来ないもんだから心配して覗きに来たら寝てるし!で、起こそうと思って肩に手ぇ乗っけたらさ、そのままこれだもん」
涙目になってまだ捻られたままだった右手を指した浜田の様子に、泉はその手をしっかりと確認した後、漸く手を放した。
「悪ぃ、寝惚けてたみてぇ……」
叱られた小動物のような顔をしている泉に向かって愛おしむような目を向けると、浜田は小さく笑って泉の湿気を含んだ髪を撫でた。

「すぐコーヒー淹れっから、早く温まってでてこいよな」
子供を宥めるようにその頭を、怒られるかと思いながら軽く叩いてやると、珍しく泉は素直に返事を返し、顎先まで湯の中に浸かって目を閉じた。
「ありがとな、浜田」
「どういたしまして」
余裕のある表情を浮かべるように心がけながら浴室を出、足音がしないように寝室に入ると、浜田はその場に崩れるようにして座り込んだ。

「あーヤベー……俺の理性が保ってる間でよかったぁ……」
湯から覗いた肩や、しっとりと濡れた黒髪、無警戒に閉じられた瞳と、まだどこかに幼さを留めている顔。
ずっと昔から、無遠慮に口に出来ない好意を抱いている相手のそんな姿に、全てを忘れて手に入れてしまいたいという衝動が沸き起こり、後数秒あの場に居れば、それを抑えていられる自信は無かった。

ゆっくりと呼吸を繰り返して自分を落ち着けると、浜田は少し濡れてしまった服を着替えようと、部屋着というよりパジャマ代わりの長袖のTシャツを脱ぎ、部屋の中に置いている、洗濯するものを放り込む籠の中に丸めて投げ入れた。
クローゼットの中にしまいこんだ着替えを漁りながら、姿見の鏡に映りこんだ自分の上半身が目に入って、再び苦い記憶が蘇る。
右の脇腹、鏡に写さないと分からない背中側にある古い傷痕。
危うく致命傷になりかけたその傷を負った時の事を思い出すと、未だに自分の不甲斐なさに歯軋りしてしまう。

「浜田?」
不意にかけられた声に振り返ると、風呂から上がった泉が、腰にバスタオルを巻き、頭にフェイスタオルを乗せた姿で扉の向こうからこちらを窺っている姿が目に入って、浜田は慌てて振り返り、後ずさった。
「もう、風呂上がったの?」
「早く上がれっつったのはどこの誰だよ」
裸足のため、フローリングの床の上をぺたぺたと足音をさせながら部屋の中に入ってきた泉は、背中にしたクローゼットの所為で逃げ場の無くなった浜田の前に立つと、高い位置にある浜田の顔をずいと見上げた。

「何なんだ、今の傷」
真剣な顔で見上げられ、たじろいだ浜田は表情を誤魔化す事も出来なかった。
「へ?」
「腰のとこの傷だよ。古い感じだったよな」
泉が何を聞き出したいのか分からなかったが、聞かれたくない事を誤魔化そうと、浜田は作り笑いを浮かべた。
「いやん、いずみのえっ……」
「ふざけんな!」
怒鳴りつけられ、驚きのあまりにまだ幾分見下ろす位置にある泉の顔を見つめると、泉は眉根を寄せた。
そして、何かを言おうと口を僅かに開閉させたが、舌打ちと共に視線を逸らせると、詰め寄らせていた体を離した。

「やっぱ良い。俺が気にしたとこで、どうにかなるもんじゃねぇんだもんな」
普段見られない、何か混乱した様子を見せる泉に、浜田はその肩に手を置いた。
「どうしたんだよ泉……何か今日変だぞ?」
「うっせぇな、お前だって……」
言葉尻を濁した泉は、肩にかけた手をいつものように振り払り払おうとはせず、小刻みに震える体を、そのまま浜田の胸に預けた。
「いずみ?」
内心の動揺が頬に朱を登らせたが、そんな事に自身で気付く余裕も無く、浜田は抱きとめた泉の体の感触に心臓を高鳴らせた。

高校時代、初めて彼の体を抱きしめた頃から比べれば遥かに硬質になり、背丈も伸びたのだが、それでも自分に比べれば小柄な体は、懐かしく幸せな気持ちを思い起こさせたが、それと同時に血を吐きそうなほどの痛みも共に蘇らせた。
その苦痛に、無意識に顔をしかめてしまう。

「雨の日って俺……時々耐えられねぇんだよ……」

浜田の苦悩を余所に、苦しげに呟かれた泉の言葉は、浜田の頭を一瞬にして冴えさせた。
「何かわかんねぇけど、大事な事を忘れてる気になる……今朝も、起きた途端部屋に居られなくて、気が付いたら、傘もささずに部屋を飛び出して……」
紡がれる不安の一つ一つを聞きながら、浜田は泉が全てを思い出していない事に安心を覚えると共に、自分と同じく、まだ彼の心の中にあの出来事が深く根付いている事を理解して、目頭に熱がこもるのを堪えた。
「一人で居る事に耐えらんねぇ、なんて……俺、こんなに弱くねぇ筈……」
「うん。泉は弱くないよ」

涙をこぼしそうになる自分を見られたくなくて、浜田は泉の肩に添えていた手を背中に回し、自分の腕の中に囲った。
抱きしめたかったが、何も覚えていない今の彼に、そんな事は出来なかった。
自分の行動一つで、思い出して欲しくない事を思い出してしまうかも知れないという恐怖が、怯える彼に少しでも安心を与えたいという気持ちとせめぎ合い、折衝した理性と心の導き出した精一杯の行動に、浜田は言葉を添えた。
「俺も、雨の日は駄目なんだ。嫌な事思い出しちまう……」
「……怪我、した時の事か?」

いつもなら見せるだろう抵抗を見せず、じっとされるがまま浜田の肩口に頬を当てた泉が囁いた言葉に、浜田は小さく頷いた。
「俺の、大事なものを無くした時の事、思い出す」
あの時、雨に濡れて体温を奪われ、どんどんと冷たくなっていく動かない彼の体を抱きしめた時の感覚が蘇りそうになり、電流に似た強張りが肌を走った瞬間、泉の腕が、静かに背中に回された。
「いず……み?」

呼びかけに答えは紡がれず、代わりに背中に回された腕に力がこめられた。
その腕が、体が、小刻みに震えているのを感じて、浜田は泉の背中に回した腕を引き寄せ、互いの体を密着させた。
「俺は平気だよ。泉が、居てくれるからな……」
記憶の一部を失っていても、再びこうして触れ合い、言葉を交わす事が出来る。
それだけで、自分は確かに少し幸せな気持ちになっていた。
外の雨音など、もう全く耳に入らない。

「泉もきっと、そのうち平気になるよ」
タオルを被ったままの頭に手を乗せると、泉は少しくすぐったそうに身じろぎした。
「俺も、今はもうなんともねぇよ」
言葉が紡がれるたびに肩をくすぐる泉の髪に、なけなしの理性が灼ける。
それを知ってか、大きく象られた黒い瞳が、じっと自分の顔を見上げた。
「おめぇがいるからな」
鋭い何かを突きつけるような言葉と共に笑って見せた泉の様子に、浜田は一瞬で思考回路をショートさせた。






「気持ち悪ぃ」
「へ?」
鼻歌交じりでコーヒーを淹れる浜田の様子を見遣りながら、カウンターの上で頬杖を付いた梶山が、心底呆れた様子でぼそりと呟いた。
「あぁ。それに何かムカつく?みてぇな感じするよな」
「何だよ梅までぇ」
昔からの友人二人の言葉に、浜田は眉を歪めた。
「俺だってたまには嬉しい事だってあるぜー?」
「別に機嫌がいいのは構わねぇよ。ただ、その顔がキモイ」
梶山がばっさりとそう切り捨てたのを聞いて、梅原も隣の席でうんうんと頷いて見せた。
「鏡見て来い。崩れまくってるぞ」
二人に言い募られて、浜田は自分の両頬を挟むようにして手を宛てた。

「そういえばお前、もう手は良いのか?」
急に話を切り替えられたが、特に慌てもせずに梶山を振り返ると、浜田は気の抜けた笑を浮かべた。
「ん?ああ。動かすには何の問題も無いよ。ちょっと痛みはあるけどな」
「生きてる証、ってか?」
浜田の言葉に、梅原は苦笑を浮かべながらコーヒーをせっついた。
軽口の中に潜む言葉の重さに、三人にしか分からない緊張を孕んだ空気が満ちたが、それを打ち破るかのように、梶山が鋭い視線で浜田を見上げた。
「で?次の仕事なんだろ?さっさと言えよ」
カップに注いだコーヒーを二人に差し出しながら、浜田は眉を困らせて笑ったかと思うと、奥底に固い感情を秘めた光を宿した鋭い目を、カウンターに座る二人に向けた。

「梶は察しが良すぎだよ。爺さんからの情報だ。例の組織が日本での活動を再開したらしい。俺達にそのけん制を依頼したいって話が舞い込んだ」
「マジでか?!」
梅原が勢い込んで身を乗り出すのを見て、浜田は表情をいくらか緩ませた。
「まだけん制だけどな。今夜、CSS社の人間と接触するらしいこいつに、ちょいとお灸を据えてやれって事だ」
言いながらカウンターの上に差し出された写真に目を落として、梶山は鼻を鳴らした。
「そのままやっちまえば良いんじゃ無ぇのか?」
低く潜められた梶山の言葉に、梅原も同意するような顔をしたが、浜田は首を振った。
「それだけで全部片付く訳じゃ無ぇからな。叩くなら全部叩かねぇと、また五年も逃げ回る事になんぞ?」
浜田のその言葉に、梅原は顔色を悪くして頭を抱えた。

「ううっ嫌だ。またジャックの野郎に迫られるのは!」
「俺も、あの鬼軍曹の拷問訓練は勘弁して欲しい……」
続いて梶山も遠い目をしながら呟くのを聞いて、浜田は相好を崩した。
「ヒトナナマルマル、梶は俺と一緒に目標家屋内に侵入、梅は建物の外で俺達の後方支援。頼んだぞ」
『Oui』
二人が声を揃えて返事を返すのを確認して、浜田は詳細を話し始めた。





降り止まない雨を、浜田のベッドに上がりこんで座りながらじっと見つめていた泉は、いつの間にか手にしていたカップから温もりが消えているのを感じて、視線を手元に移した。
雨音を聞きながら、一人でじっとしているという事があれほど苦しかったのに、今はもう嘘の様に落ち着いていられた。
大学に進学した頃はそうでもなかったが、刑事になり、浜田と知り合った一年ほど前から耐える事にかなりの精神力を必要とするようになった。
昔なら、誰かに連絡を取って、話をしているだけでも落ち着けたのに、今日はどういうわけだかそれでも落ち着かなかった。

非番の日の6時前という時間に、電話をして誰かを起こすという事に躊躇いを感じながらも、花屋という仕事柄、早起きをしている高校時代からの知り合いの水谷に電話を入れ、注文がてらに他愛ない話をしたりもしたが、仕事の邪魔を続けるわけにも行かず、そう長くも話さなかった。
そして一人暮らしをしている部屋に下りた沈黙。
雨音と、時折車の濡れた走行音がするだけの世界に耐えられず、気が付いたら適当に着替えるだけ着替えて、部屋を飛び出していた。
それでも、携帯や財布、部屋の鍵を忘れなかった自分に笑いながら、泉は雨の中、できるだけ走り続けながらここを目指した。

昔世話になった時に貰い受けていた合鍵を使って、店から建物の中に入った。
この建物一つが浜田の管理物だと知ったときには驚いたが、世話になった人からの委託だと知った時には少し安心した。何しろ家具や内装の趣味がらしくない。
だからこの建物の中で一番落ち着けるのは、この部屋と、一階の店だけだった。
この浜田の寝室は、元々あった家具を全て放り出し、浜田の趣味で統一された(というより物を出来るだけ排した)部屋で、寝相が悪いからという理由でダブルになっているベッドとラグ、そして小さなテレビが置かれているだけだった。冬場にだけ置かれるコタツが無いと、部屋は広すぎる印象を与える。

悪いとは思いつつ、いつもはもっと遅くまで寝ているという彼に内緒で部屋を覗き、顔を覗いたら帰ろうと思っていた。
もし気付かれても、何とか虚勢を張るくらいのことは出来ると思っていた。
けれど、いざ来てみると浜田は起き出していて、言い訳も何も出来ないまま、ただ挨拶のような言葉を交わすので精一杯だった。
だが世話を焼かれているうちに緊張はほぐれて、風呂で寝入ってしまうという醜態まで晒してしまった。おまけに──

その後の事を思い出して、泉は頬を赤らめた。
自分の中の気持ちをこうもはっきりと自覚する事になるとは思わなかった。
とても世話になった人で、フランスに居た事がある(と聞いた)所為か、ときどき行過ぎたスキンシップはあるが、仕事の上でも手助けをしてくれる友人だと思っていた筈なのに、傷を目にした瞬間、自分の知らない事がある事に腹立ちを覚え、大事なものを無くしたと切なげに囁かれた瞬間、嫉妬で目がくらむかと思った。
「くそっ……相手は男だっての……」

悪態を吐きながら、手の中のカップに残っていたコーヒーを一気にあおると、寒さ除けの為に体に直接巻きつけていた掛け布団を引きずったまま、立ち上がろうとした。
その瞬間、聞きなれた携帯の呼び出し音が響き、浜田が窓枠のところに置いてくれていたそれが、ブルブルと震え始めた。
さして慌てる事も無くディスプレイを確認すると、刑事企画課の堅物として有名な阿部警部からだった。
先日誘拐騒ぎのあった三橋の秘書をしている阿部の父親で、昔からの顔見知りでもある相手ではあるが、非番の自分に直接電話を掛けてくる理由が見当たらず、慌てて通話ボタンを押した。

「もしもし、泉です」
『おう、悪ぃな非番に』
名乗りもせず軽い口調で話しかけてきた上司に、泉はどう答えたものか思案した。
「何か個人的な用ですか?」
公用か私用か、それによって態度を変えるわけではないが、一応の確認の為に尋ねる。
『ん?ああ、まぁちょっと個人的かもな』
電話の向こうで、友人の阿部を丸々と太らせたような印象の男が、何か企みを含んだ笑いを浮かべているのを感じ取って、泉は眉間に皺を寄せた。
忙しいからと言い訳して切ってやろうかと思っていると、それを察したのか、電話口で阿部警部は派手な咳払いをした。

『ケミカルサイエンスシステム社の幹部が一人、今日来日するフラック社の人間と接触を持つってタレコミがあった』
「例の人身売買組織のっすか?」
泉は忘れたくても忘れられない名前を耳にして、体を強張らせた。
組織犯罪対策課に配属されてすぐに手がける事になった事件で、この捜査中に浜田と知り合った。
『どうやら沈黙を破る気になったらしい。で、お前さんにCSS社への囮捜査の内示が出そうでな。そうすぐに潜るわけじゃ無いが、心積もりは早い方が良いだろ?』
面白がるような声音を気にする間も無く、泉は任された大役とやっと相手が動き始めたのだという高揚感に、大きく息を吸い込んだ。

『意気揚々なのはいいが、今日の非番はしっかり休んどけ?これから暫く、気の休まる日は無ぇぞ』
最後にそう言い置かれて切れた電話を折り畳むと、泉はカップと携帯を再び窓枠のところに置くや、浜田のベッドの上に派手に倒れ込んだ。
様々な事が頭の中を高速で巡っている感覚だったが、その実何も考えられていないという事は良く分かっていた。
だからというわけでは無いが、もう一度深呼吸をすると、生成りの綿で作られた布団カバーから、浜田の匂いがふわりと立ち上った。

コロンなどをつけない主義だという彼の体臭に、腹の底で何かが疼く。
捜査に入ってしまえば、そうそうここに立ち寄る事も出来なくなるのだという寂寥感が、静かにその疼きを包み込み、封じ込んだ。
目を閉じ、包まった布団ごと体を縮こませると、泉は温もりと匂いを忘れない為に、深い呼吸を何度も繰り返した。


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二次創作で、パロで、どこまで広げるつもりなのか……泉に電話を掛けてくる相手に、2時間悩みました。
モモカンとか、シガポでも良かったのか、な……