ずっと、ずっと。

見てもいない、付けっぱなしのテレビからは賑やかな音が溢れていた。
「田島ー。見てねぇなら消すぞ?」
「んー…分かった」
どこかぼんやりとした田島の声。花井は仕方ないな、とばかり苦笑いを浮かべて嘆息するとリモコンを取り上げた。
気を抜くと船を漕ぎ出しそうに、とろんとした目で田島が花井を見る。ずる、と滑った身体がすっぽりと座っていたソファーに沈む。
花井がテレビを消して振り返った時には、何とも気持ちよさげな表情で寝息を立てている田島が居た。
「…落ちたか」
そっと近づき、下敷きになった右腕を直してやると田島の口がむぐむぐと動く。少々荒っぽく身体を動かしても目覚める気配はない。
ソファーの下に転がったクッションを拾い上げて田島の身体を支えるように置き、花井はゆっくりと身を起こした。楽な姿勢になったのか、田島は口元に微笑を浮かべている。
「お前…よく、覚えてたな」
ぽつり、と唇から言葉がこぼれた。花井は手を伸ばし、くしゃりと田島の髪を撫でる。
壁に掛かったカレンダーに、くっきりと付けられた花丸。花井が年が明けてから変えようと置いてあったカレンダーへ、こっそり書き込まれていた。
昨日開いて初めて気付き、その日付の意味に花井は一瞬戸惑った。まさか、と思いつつ記憶を辿っても、思い当たるのは一つだけだった。


改めて、これから共に生きていこうと、誓い合った日。


高校で出会って、想いを通わせて付き合い始めた。もう、一緒に暮らし始めて何年になるのか。
お互い進む道も別れて、何度もケンカを繰り返した。それでも、共に居たいと思うのだ。一緒に居ない人生など、考えられなくなっていた。
「…は…なぃ……」
すり、と撫でていた手のひらへ田島が頭を摺り寄せた。満足気に微笑んで、くぅくぅと寝息を立てている顔は、すっかり大人になったというのにどことなく幼い。
「大晦日ではしゃぐとか、昔から変わんねぇよな」
年末から元旦にかけて、田島の浮かれっぷりは半端ではない。何度も年越しを一緒に迎えたが、未だにそれは変わらなかった。
一年の計は元旦にあり、という祖父の教えが生きているのか、どれだけ疲れて眠かろうと朝8時には起床する。それは立派だと思うのだが、いかんせん身体は休もうとするらしく、元旦の田島は睡魔との闘いを繰り広げていて使い物にならないのだ。
名残惜しげにもう一度髪を撫で、花井は手を離す。ゆっくり立ち上がると部屋を横切り、用意していたブランケットを出してくる。
「晩メシまで、寝てていーぞ」
広げたブランケットで田島の身体を包み込む。花井はそう呟いてくしゃりと眉を下げた。
こっそり買っておいた、祝いのシャンパンは程よく冷えている。田島だけでなく、花井とてこの日を忘れるはずがない。


ずっと一緒にこれからも、こんな小さな幸せを一緒に繰り返せればそれでいい。







(2010.1.17)
VARIOUSSTOREの葉良さんより、2周年記念のFDLSS。
掲載許可下さり、ありがとうございますvあぁもうタジハナ良いなぁ!