かわるものと、かわらないもの




  第2話


隣の三橋を見ると、なんだか落ち着かないのか、ちょっとそわそわしている。

「なんか、ここにいるとね、昔みたいに、キャッチボール、したくなっちゃった。」

「そう言うと思ったぜ。ホラっ。」

オレはカバンからゴムボールを取り出し、三橋に投げた。

「ボール・・・」

「ミットはねーからな。ちょっとだけ、やろうぜ!」

「うん!」

キャッチボールをしながら、高校の頃の思い出話をたくさんした。

球技祭、体育祭、文化祭、修学旅行。どの話にも、必ず三橋が出てくる。

「西浦高校・・・入ってよかった?」

「ああ。校風は自由だったし、生徒の自主性を重んじて・・・つーか、あんまりうるさく言われなかったよな。

 オレ、本当は、野球の設備のちゃんと整った学校を選ぼうかと思ったこともあったんだけど、  そんなことしなくってよかった。西浦で、充分満足にやれたからな。」

・・・よかった、って思う理由は、それだけじゃないけどな。そう思いながら、ボールを投げる。

パシっと三橋がキャッチして、投げるのをやめて、話し始めた。

「私も・・・三星の高等部に行かなくてよかったよっ。

 だって・・・ここにこなかったら、阿部君に、会えなかったでしょ?」

オレの頬が一気に赤く染まる。

オマエは!!オレがさっき口にしなかったことを、さらっと言いやがって!!

んなこと言われたら、このまますぐに帰りたくなっちゃうじゃんかっ!!

・・・・そんな天然なところは、全く変わっていない。

「でもね、卒業式のあとで、タイムカプセルに何を書こうか考えていたときにね、

 この先、何年間、阿部君と一緒にいられるんだろうって、考えちゃって。

 大学は一緒って決まっていたけど、時が流れて、お互い少しずつ変化して・・・

 もしかしたら、今日は、隣に阿部君がいないんじゃないかって思った。

 だからね、タイムカプセルには、

“10年後の私へ。あなたの側に、阿部君はいますか?”って書いたんだ。

 だからね、こうして二人でずっと一緒にいられて・・・本当に、うれしくって・・・」

・・・・泣き虫なところも、変わってない。

オレは、三橋の側に近寄った。そして、涙をそっと手ですくってやる。

「ホラ、泣くな。」

「うん。ごめん・・・」

「なあ、オレたち、すでに高校のころから、少しずつ変わってきているだろ?

 そしてさ、これからも、ちょっとずつ変わっていくと思うんだ。

 でも、安心しろ。オマエが変わっても、変わらなくても・・・・オレは、オマエのすべてを包みこんでやるよ。」

「あべくん・・・」

素直で、純粋で、お人よしで、まっすぐで。そういったところも変わっていない。

変わったところは・・・人前で、堂々と話すようになったこと、だな。

どもることもなくなり、友達も増えた。



かわるものと、かわらないもの。



泣き止んだ三橋が、大きな瞳をこちらに向けて聞いた。

「阿部君は、タイムカプセルに、何て書いたの?」

「・・・忘れた。」

「えっ?そうなの?あとで、見たいな・・・」

「ダメだ!」

「えーっ。」



「おーい、阿部!三橋!みんな集まってるぞ!!」

花井がオレたちに声をかけてきた。

「おうっ。三橋、行こう!」

「うんっ。」

オレたちは駆け出した。



実はな、本当は、ちゃんと覚えているんだ。

10年後の未来のオレに宛てた手紙には。



“オレの隣に、三橋はいますか?”



その過去のオレからの質問には、“yes”と胸を張って答えることができる。



オレの隣に三橋がいることは、10年前も今も、かわらない。

そして、10年後も、そのあとも、ずっと、かわらないだろう。



来月、オレたちは 結婚します。  







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いえ、もうね、凄く凄く幸せなんですよ。私……(しみじみ)
雪月さん、お忙しい中、リクにお答え頂いて本当にありがとうございました!!
そしておめでとう阿部、三橋!この二人は絶対に幸せになるんでしょうねv